ハッハッハッ

「ヤバイー、遅刻するかもーっ。」
「おーい、ー!」

 キコキコキコキコ キキィーッ

「桃ちゃん!」
「あんだ、随分急いでんなー。」
「朝練に遅刻しそーなんだよー!」
「おっと、そいつは一大事だな。よっしゃ、飛ばしてやっから乗ってけよ。」
「え゛?!」
「ほらほら、乗った乗ったー!!」
「ちょ、ちょっとー!!」




     ぶっ飛び自転車、学校行き。



「何だっていきなし乗っけるのよー。」

 、不動峰中学2年、通称・は目の前に広がる
でっかい背中に向かって文句を垂れた。

「お前が遅刻寸前だっつーからだろー。」

背中の持ち主は自転車をこぎながら、何言ってやがると言わんばかりだ。

朝っぱらからツンツン頭が目立つ特徴的なこの少年は名を桃城武と言った。
の通う学校と同じ地区にある私立中学の生徒で、偶然にも通学路がと
途中までかぶっていたりするのが縁で知り合った。
(もうちょっと深く説明すれば、ドジって道の真ん中でこけてたを
 桃城が自転車で轢きかけたことがきっかけだったりするが。)

以来、登校中に会えば必ず喋る仲になっている。

「だからって…」

は俯いてぼしょっと呟いた。

「桃ちゃんも朝練あるのに…」

は学校で女子テニス部に属している。
対する桃城も通ってる学校では男子テニス部のレギュラーだ。
運動部のご多分に漏れず2人とも朝練がある。

勿論、遅刻なんぞは言語道断だ。
加えて桃城の場合、部長がメチャメチャ厳しいので有名な人物らしいので
としてはあんまし桃城に迷惑をかけたくないのが本音なのである。

しかし、

「心配すんなって、お前送ってすぐにぶっ飛ばしゃ間に合っから!」

当の桃城は至って余裕である。

「ホントでしょーね、それでもしチコクしてあのおっかない部長さんに
 大目玉食ったって言われたって知らないから!」
「ヘーイヘイ。あ、ちょっと飛ばすからな。」
「ハイ?」

が聞き返すか返さないかのうちにいきなり自転車のスピードが変わった。
桃城がこぐペースを上げたのだ。

さっきまでの着ているセーラー服の襟が軽く持ち上がる程度だったのに
急にバサァッと風に乗って彼女の後頭部を覆う。

「しっかり捕まってろよー、。フルスピードでいくからよ!」
「ちょっと、やめてよやめてよ、この前だって死にかけたんだから!」
「えー次の停車駅はぁ、不動峰中前〜、不動峰中前〜☆」

桃城はを無視して電車のアナウンスの真似をする。

「人の話を聞け──────────っ!!」

朝もはよから少女の叫び声が虚しく住宅街にこだました。



「もーっ、二度と乗んないから!」

学校の正門の前に着くと、はヨロヨロと桃城の自転車から降りた。

「何だよ、送ってやったのにその言い方はよ…」

桃城は不満そうに呟く。

「そりゃ有り難いんだけどさ、桃ちゃんの運転メチャメチャやばいんだもん。
 下手すりゃ通報されてるかもじゃん!」

がそう言うのも無理はない。

何せあの後、桃城は後ろにを乗せたまま自転車で出せる最大限のスピードで
坂や道をぶっ飛ばしていったのだ。
その勢いたるや、通りすがりの猫を轢きかけたり、危うく人んちの垣根に飛び込みかけたり
挙句の果てにはをコンクリートの塀にぶつけるすれすれのところで角を曲がったり、
とにかく危ないったらない。

その度に桃城がどうするかと言うと、いきなり自転車の前輪を思い切り上げて
無理矢理障害物を跳び越したり、がいることを忘れてんじゃないかと
言いたくなるくらい地面すれすれまで横に傾けてコーナリングしたりと
遊園地のジェットコースター並みに怖い。

で、勿論がその間中黙ってられるはずもなく、危ない目に遭う度に何回も
叫び声を発していたのである。
おかげで彼女にしてみれば朝練の前から体力を消耗した思いだ。

しかし、桃城は呑気なものである。

「大丈夫、大丈夫。今まで事故起きてねーし。」
「一遍、自転車で転んで捻挫して試合出れなかったってきーたけど?」
「ぐっ…」

の突っ込みに桃城は一瞬たじろぐ。

「と、とにかくだな、お前が間に合ったんだからそれでいーだろ!」
「そーゆー問題じゃないでしょ、アンタは乱暴系のバス運転手か!」
「何だ、そりゃ?」
「客の安全省みず、めっちゃくっちゃな運転する奴!たまにいるでしょ!」
「あんだとー、んなのと一緒にするこたぁねぇだろ、俺はちゃんとの
 安全も省みてるってーの!」
「嘘つけーっ、人を曲がり角の塀にぶつけかけたくせにー!!」
「あれだってちゃんと回避しただろーがよっ!」

2人の会話はとうとう言い合いみたいになってきた。
しかもどちらも声がでかいから、通りすがりの生徒が何事かと
ジロジロ見ている。

「大体、人の了解なくいきなり持ち上げて後ろに乗せる奴がある?!」
「四の五の言ってる場合じゃねーから仕方ねーだろ!お前こそ、キャーピー騒ぎすぎなんだよ!」
「あれで騒ぐなって方が無理でしょ?!」
「だったらせめて音量下げろっての!」
「桃ちゃんだって声でかいじゃない!」
「なーんのことだっけなぁ〜。」
「キーッ!」

と桃城はしばらくこうしてわーわーやってたのだが
がもう一言言いたいことを吐き出そうとしたら桃城が
ふと自分の腕時計を覗き込んだ。

「おっと、こーしちゃいらんねぇな、いらんねぇよ。」
「あ、トンズラ!」

しかし桃城は再び自転車のペダルに足をかけている。
そして、

「じゃーなー、ー!」

あっという間にツンツン頭は遠ざかっていった。

「こらーっ、逃げるなーっ!」

が叫ぶと、遠くの方で桃城が片手をヒラヒラッとさせるのが見えた。


桃城の暴走自転車のおかげで散々ではあったが、
は奇跡的に朝練に間に合った。

「さん、また桃城君に送ってもらったの?」

テニスコートに行ったら、同じ女テニの橘杏に藪から棒に言われて
はずっこけた。

橘杏は去年九州から転校してきた少女で、何でも現男子テニス部の部長の妹だそうだ。
(にとっては興味ない事柄の為、あまりよくは知らないのだが)

結構勝気で明るく、加えて可愛いので野郎共の人気の的である。

「うーあー、何で橘さんが知ってんの?」

思わず呻くに、杏はクスクスと笑う。

「だって校門で見てた子いっぱいいるわよ。さんが他校の男子と
 言い合ってたって。さんが知ってる他校の人と言えば、桃城君ぐらいでしょ?」
「ウッソ、最悪。やってらんなーい。」

何とも恥ずかしいことを聞かされては頭を抱える。

「それもこれも桃ちゃんがあんな迷惑運転するからー!」

そんなに杏は更に笑いをこらえ切れない顔で言った。

「仲がいいのね。」
「………そぉかなぁ?」

首を傾げるに杏はええ、と笑顔で断言した。

「だって、さんはいつも『』って呼んでもらってるじゃない。
 あたしなんかいつまで経っても『橘妹』なのよ?」
「別に桃ちゃんは何も考えてないと思うけど…」

は呟く。

少なくともが思うに、桃城という奴は人懐っこいから
嫌いな奴でない限り人をあだ名で呼ぶことに抵抗がないタイプというだけだ。

しかし、生憎杏の方はそう思ってないようだった。

「さん、貴方もしかして気づいてないの?」
「何が?」

の反応に、杏は信じられないと言わんばかりだ。

「ごめん、何でもないわ……。」
「???」


同じ頃。


「桃先輩、今日いつもと違うとっから自転車飛ばしてたっスね。」
「ああ、ちょいとヤボ用でな。」
「フーン。」
「何だよ、越前、そのニヤニヤはっ!」
「あの方向、確か不動峰がありましたよね。」
「えっ、何々ー。桃ってば、朝から不動峰の杏ちゃんとデート?!」
「ちっ、違いますって、英二先輩!変なこと言わないでくださいよっ!」
「興味深いデータだ…」
「アンッタもメモるなー!!」


      


朝からちょっとごたついたのがまずかったのか、
の今日一日は無事ではすまなかった。

朝練中は女テニの連中から、今朝のことで質問攻めに遭った。

授業中はいきなり一時間目から寝とぼけて、先生に叱られた。

休み時間は机に突っ伏してたら、今朝のことで他の連中が
本人を前に色々好き勝手言ってる上に、ふざけ屋の
男子が彼女の休息を邪魔してきたのでつい挑発に乗って
大暴れしてしまった。
(やはり先生に叱られた)

昼休みは昼休みで、どういう訳か手元が狂い、おにぎりを一つ
ダメにしてしまった。

掃除の時間には、バケツに水を入れすぎて
3分の1ほど廊下にぶちまけてしまった。


そうしてやっと放課後が訪れた頃にはは最早幽霊状態だった。

「さん、疲れが顔に出ちゃってるわよ。」

一緒に部活に向かいながら杏に言われて、はむぅっとした顔をした。

「だってー、朝からあれでフラフラだし、女テニの皆はあれこれきーてくるし、
 その上災難続きだし。大体桃ちゃんは無神経なんだよ、
 自分が体力有り余ってるからそれ基準なんだもん、
 つき合わされるこっちは寿命がヤバくなるってーの!
 絶対後でたっぷり文句言ってやっから!」

グチグチ言い出すに、杏は朝練の時のようにまたクスクス笑う。

「じゃあ、文句言う機会作ったげるわ。」
「はい?」

唐突な杏の申し出に、の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。

「今日部活終わってから桃城君と一緒にストリートテニスコートで練習する
 約束してるんだけど…さんも行きましょ。」
「え、ちょっと、橘さん、それって…」
「それじゃ、決まりね。桃城君にはメール送っとくから☆」
「え゛ーっ!?」

あまりと言えばあまりにも突然の話だ。
勿論、は断ろうとした。
しかし、杏は案外頑固での言うことに耳を貸さない。
更に

『何も喧嘩してる訳じゃないでしょ?』

とニッコリ微笑んで言われた日にゃ、だってこれ以上
食い下がれやしない。

結局のところ、は白旗を揚げるしかなかった。


      


半ば強引な杏の誘いに肯きはしたものの、はあんまり気乗りがしなかった。

別に桃城のことが嫌いなんではない。
(嫌いな奴の自転車の後ろに乗るほどはお人よしではない)

しかし、基本的ににとって桃城は一日一回、朝の登校路でしか会わない人だったから
一日に二回も、それも他のところで会うというのは何となく気恥ずかしい。

まして今朝2人でわーわー言い合ってたことを思うと、ちょっとばかり
気が引ける思いだ。
(桃城は多分気にしてない、とは思うが)

そういう訳で、部活が終わったは今、微妙な気分で杏と一緒に歩いていた。

「さん、どうかした?」

ふいに杏の心配そうな声が聞こえて、はハッとした。

「ううん、何でもない。」
「なら、いいんだけど…あ、そこの階段上がったとこよ。」

言われてが見上げてみればコンクリートの階段が高台へと続いている。
杏の後にくっついてそこを上がると、の目の前に結構広いテニスコートが広がった。

「へー、こんなとこあったんだ。」

は呟いた。

「何回も近く通ってたけど、全然気づかなかったな。」
「おーい!」

が一人ブツブツ言ってたところへ、今朝も聞いたデカイ声が
割って入った。

「あ。」
「桃城君。」

これまたにとっては今朝も嫌というほど見たツンツン頭が
近づいてくる。
しかも、横にはオプション付きだ。
桃城より随分背丈の低い、キャップをかぶった少年である。
の知らない顔だが、桃城の後輩かなんかだろうか。

「よっ、橘妹に。」
「こんにちわ。」

やってきた桃城に普通に挨拶するのは杏だが、普通じゃないことを
言うのはだ。

「あ、トンズラ自転車。」
「う、ウルセーッ、あれは単に俺も急いでただけだっての!」

桃城の顔が少し赤くなる。

「そ、それよりよ、。大丈夫だったか?」
「あー、お蔭様で朝練には間に合ったよ、ありがと。」
「そか。ならいーんだ。」

どういう訳か、顔が赤いままそっぽを向いて話す桃城に
は疑問符を浮かべる。

いつもの桃城ならちゃんとの目を見て話すのだが。

「へー。」

そんな2人のやり取りを聞いて、さっきまで黙っていたキャップ君が
口を開く。

「桃先輩、朝からこの人とデートしてたんだ。」
「バッ、越前、ちげーって!俺は単にが遅刻しそうっつーから
 乗っけてやっただけでだな…」
「桃ちゃん、この大勘違い君、誰?」

の一言にカチンと来たのか、越前と呼ばれた少年は
帽子の影からジロッと彼女を見た。

「アンタこそ、誰?」
「 でいいよ。」
「……越前リョーマっス。」

キャップ君は言って、を頭のてっぺんから足先まで
ジロジロ見る。

ちっと苦手なタイプだな。
は頭の中で越前リョーマをそう処理した。

「それより、」

と越前の間に何か剣呑な空気が漂いだしたのに気がついたのか、
杏が口を挟んだ。

「せっかくさんも誘ったことだし、練習しましょ。」

ちなみにこの間、桃城がの方をチラチラ見ていたのだが
当の本人はまるっきし気づいちゃいなかった。

で、さっそく一同は練習することになったのであるが…

「まさか桃ちゃんとペアになるとはね。」
「まさかとペアになるとはな。」

……………………。

『真似するな!』

コートの中での声と桃城の声が綺麗にハモった。

ネットの向こうでは、越前とペアになった杏がそんな二人を見て苦笑している。

「何でハモる訳?」
「知らねぇよ。それより、、お前ダブルス得意か?」
「どっちかってーと。」

本人の言い方は非常に曖昧だが、実を言うとはダブルス専門と言ってよい
タイプだった。
特に杏と組んだ時はかなり強いことで部内でも評判だ。

「よっしゃ、んじゃ頼んだぜ。」
「まかしといて。」

ニッと笑う桃城にも釣られて笑った。


はそもそも杏に何て言われてこの場に誘われたのかということも、
しかも誘われた時は乗り気じゃかったことも完全に忘れてた。

「!」
「ハイハイ!」

 バシィッ

「やるじゃねーの。」
「そら、もう。」

いまや、桃城とも息ぴったり、完璧に乗り気である。

「にゃろう!」
「さん、すっかり乗ってるわね。」

一方の杏・越前ペアはやや苦戦してる模様だ。
その割に杏は何やら楽しそうであるが。

「むむっ、橘さんに秘策ありか?」
「だったら望むところだぜ!」
「あっ、越前君が打ってきた。」
「早く言えよ!」

文句を言いながらもさすがは桃城、素早くダッシュして打ち返す。
はそんな彼の後ろで様子を窺う。

何ていうか、テニスの時はホント凄いんだな、桃ちゃんって。

桃城の動きを見ながらはボンヤリと思った。

今までテニスしてるとこは見たことなかったけど、
やっぱあの青学のレギュラーなだけはあるよね。

朝は人の迷惑考えないぶっ飛び自転車君なのにさ。

がそんな風に考えてた時だった。

「、そっちだっ!」

桃城が声を上げた。

ハッとしてが前を見ると、越前がニッと笑ってショットを放つところだった。

「ヤバっ!」

右側ががら空きだ、は慌てて走る!

間に合わないかも?!
一瞬、頭の中にそうよぎる。

「えーいっ!」

はやけくそ気味にラケットを振った。

バシィッ!

「ちぇっ!」

ありがたいといおうか何と言おうか、越前が舌打ちするのが聞こえた。

「間一髪、ふぅぅぅぅ…」
「やったぜ、!」

桃城が駆け寄ってきた。

「橘妹がお前ダブルスうまいっつってたけど、マジだな。」
「何だ、知ってたの。」
「いや、こないだ聞いたの今頃思い出した☆」
「ちょっと待て。」

アッハッハ、と豪快に笑う桃城に、は一瞬
ラケットで突っ込みを入れるべきか本気で考えた。



勝負は・桃城ペアの勝利に終わった。

『お疲れ様ー!』

「さん、凄いじゃない。桃城君といきなり息合ってたし。」
「んー、どうだろ、桃ちゃんも合わせてくれてたからじゃないかな。」
「やっぱりダブルスは性に合わないっス…」
「文句言うな、こいつもけーけん(経験)だろ、けーけん。」

ベンチに座ってわいわい言ってるとふと、杏が言った。

「何だか喉渇いちゃった。私ちょっと飲み物買ってくるね。」

杏は財布を取り上げてベンチから離れる。
は自分も彼女と一緒に行こうとした、が、

「俺も行ってくるっス。」

を遮るように越前が言って、スタスタと歩き出す。

「あ、橘さん…」
「お、おいっ、越前!」

…………………。

「行っちまったな。」
「そだね。」

杏と越前の後姿を見送れば、その場に残ったのはと
桃城の2人だけになった。

「…………あのさ、。」
「ん?」
「その、話があんだけど。」
「何?」

しばし沈黙。
桃城は口を噤み、どう切り出したものかと迷ってるかのように
首をひねり出す。

は緊張で体がこわばった。
一体桃城は何を言おうとしているのか、まさか自分は彼に何かしでかしただろうか。
普段こんな風に逡巡する相手じゃないだけに不安が募る。

「桃ちゃん?」
「だあぁぁぁぁぁ、もう、まどろっこしい!!」

 ガシッ

桃城がいきなり暴走した。少なくともにはそう見えた。
でなくては、今の彼女の状況は説明できない。

何故なら、桃城は何の前触れもなくを抱きしめて
こう怒鳴ったのだ。

「好きだっっっ!!!」

の思考回路は、ショートして黒こげになった。
故に、何が起きたのか今ひとつ感知出来てない。

「えーと…」

桃城の腕の中では黒こげ回路で何とか思考をめぐらそうとする。

「あ、あの、えと、マジですか、桃城さん?」

桃城はずっこけそうになった。

「お、お前なぁ!誰がこんなこと冗談でやるかよ。」
「で、でも何で…?」

は当然出てきた疑問を口にする。
少なくとも自身に惚れられる覚えはまるっきしなかった。
自分の見た目は至って普通だし、性格もさほど内気でもないが活発な方とも言い難い。
今日だって食ってかかるような物言いをしてしまったし、
自分は桃城といて楽しい、と思うが桃城がどうなのかは自信がない。

「ぶぶっ。」

ふと、目を上げれば桃城が吹き出していた。

「アハハハハハ、、お前やっぱおもしれぇなー。」
「なっ、ちょっと、どゆ意味よ!」
「だってよぅ…」

桃城は目の端に浮かんだ涙をこすりとる。

「ここまで自分のことわかってないんじゃ、吃驚通り越して
 笑っちまうぜ。」
「そこまで言うか。」
「、」

膨れるに桃城は優しく言った。

「俺はお前といて楽しいっていつも思ってっからよ、もうちょっと自信持てよ。」
「あー…」
「大体、お前鈍感すぎんだよ!俺だって誰でも彼でも後ろに乗っけてやるって
 もんじゃねーんだからなっ。お前のせいで橘妹にまで相談しなきゃなんなくなったしよ…」

顔を真っ赤にしてそっぽを向き、ブツブツとそう言われたら
にだっていい加減わかる。

「桃ちゃん、」

桃城にちょっともたれてはそっと呟いた。

「ありがと。」


「桃城君達、今頃うまくやってるかしら。」
「つーか、何でここまでお膳立てしてやんなきゃなんない訳?
 俺まで巻き込まれたし…」
「しょうがないわ、相手がさんだもん。桃城君もちょっと遠慮しちゃってたみたいだし。」
「ふーん…変なの。」


そうして日がかなり沈んだ頃、4人はそれぞれ家に帰ることになった。

杏は一人で、近所に住んでる桃城と越前、それから途中まで方向がかぶってるは
三人まとめて一緒に帰る。

「それじゃあ、私こっちだから。」

階段を降りたところで杏が言った。

「うん、また明日学校で。」
「気をつけてな、橘妹。」
「さよならっス。」

杏はスタスタと歩き出したが、すれ違いざまにこっそり呟いた。

『うまくやってかないと承知しないからね、さん。』
「はい?」

は聞き返したが、杏はニッコリ微笑んだだけでさっさと行ってしまう。

「、」

首を傾げていたら、桃城に呼ばれた。

「乗ってけよ。」

桃城は既に自転車に乗っていて、後ろの荷台を指差している。

「いいの?」
「いーから、いーから。」
「ズルいっスよ、桃先輩。今日は俺を乗っけてくれるって…」

越前が抗議するが、桃城は聞く気がないらしい。

「ほら、、早く乗れって。」
「うん…」

は、膨れている越前をチラと見やりながらそっと桃城の後ろに乗る。

「よっしゃ、んじゃ行くか!」
「越前君はどーすんの?」
「わりぃ、越前、お前小走りな。」
「……にゃろう。」
「ホントにいいのかなぁ。私、知らないからね。」


      


その後の2人がどーなったかというと、実はあんまりどってことは
ない感じである。

と桃城は相変わらず登校中に出会っては、何やかんやと喋る。
その間に時折ボケ突っ込み(多分)が入る。何かにつけてわーわー言い合う。

ちょっと変わったことと言えば…

 キコキコキコキコ キキィーッ

「よぉ、ー!乗ってくかー?」
「乗る!」
「おっしゃ。」

ストリートテニスコートでの何とも唐突な告白劇以来、
は別に遅刻しそうじゃない時でも桃城の自転車に
乗って不動峰中の門まで送ってもらうようになっていた。

言い出したのは桃城だった。
ちょっとでもと長く居たいという彼のたっての申し出だったが
初め、は桃城の負担を考えて躊躇した。

でも、結局は桃城に圧されて首を縦に振ったのである。

「ほれ。」

桃城が片手を差し出す。はその手につかまって自転車の後ろに
ひょいっと乗る。

「乗ったよ!」
「ちゃんと掴まってるだろうな。」
「大丈夫だって。それじゃ、」

言っては片手で桃城の肩を掴み、空いてる方の手をピッと前方に突き出した。

「ぶっ飛び自転車、学校行きしゅっぱーつ!」
「だあぁぁぁっ、変な名前つけんなー!」

そして、2人分の重さを乗っけた自転車は高速で発進する。

「うわうわーっ、今日も速いわねー!」
「!」
「なーにぃ?」
「今日部活終わったら駅前で会わねーか?」
「おっ、いいねー。行く行く♪って、桃ちゃん前、前っ!電柱っ!!」
「え? どわああああああっ?!「バカーッ!!」



「へー、あの子がちゃんかぁ。……結構普通の子だにゃ。」
「何で俺までストーキングの真似しなきゃなんないんっスか…」
「おチビがそもそも桃に彼女出来たって報告したんだろー。
 言っとくけど、一蓮托生だかんね!」
 "Good grief.."(やれやれ)
「ふむ、いいデータが取れた。」
『!! いつの間に?!』

おわり。
作者の後書き(戯言とも言う) リョーマに続いて撃鉄初の桃城夢です。 今まで書いた中でこれほど最初の設定と出来上がりが 大幅に変わった作品はありません(^_^;) まずは主人公の初期設定を最初コンビニで毎週少年誌を 立ち読みしてる変わり者、としておりました。そこで 最初は桃城少年の一人称で、次は主人公の一人称で 書いてみたのに全然うまくいかない。 で、結局いつもみたいに完全変わり者の主人公にすることを 断念して撃鉄には珍しいわりと普通のタイプにしてみたら あら不思議、結構サクサク書けちゃう。(阿呆か) 杏ちゃんのおかげが大きいのは間違いないです。 しかし、ここまで来るのにシナリオ自体を破棄すること4回!! この前のリョーマ夢よりもひどい回り道であります。 そんなこの作品ですが、リクエストくださった華白様に捧げます。 滅茶苦茶遅くなって申し訳ないです! ここまで読んでくださった方も有り難う御座いました☆ 追伸:文中で数箇所、変に行が空いてるとこが気になるぞって方は 反転させてみてください。
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